ある朝6時に目が覚めました。外で変な声が聞こえています
「あ~あ~あ~あ~あ~」「ド~ミ~ソ~ミ~ド~」とか誰かが発声練習しているよな。
こんな時間に誰だよ とドアを開けると2階の線路に面した方の階段から聞こえてきます。そーっと足を忍ばせて階段を下から覗くと4年の先輩が。確か先峰さん。防衛大学を中退して有名な私立大学に入りなおしたある意味秀才。大学で確かグリークラブに入っていると聞いてます。この発声練習はそのため?でもこんな時間じゃいくらなんでも近所迷惑。まずいでしょ。誰も注意しないし誰も起きてこない。みんな慣れっこ?通勤時間とか考えたら6時くらいにはこの寮の周辺の台所は電気もついてるから問題ないのかも。この先輩は僕の喫茶室にはほとんど来ることがありませんでした。ひたすら部屋では勉強しているらしいといううわさが流れていました。ほんとのことはわかりません。いつもニコニコしてるけど。
コーヒーを用意するようにと言った先輩。藤本さん。口髭をはやしてちょっとごつい。大学のクラブも少林寺拳法とのこと。でも趣味は写真で自分の部屋で現像までやっている。女性のモデルの撮影会というと飛び出していく。もう一つの趣味がプラモデル。だから部屋が少しというかかなりアンモニアとシンナーの入り混じったにおいがする。もしかすると意識的に吸ってるんじゃないのかと間違えてしまう。
そうはいっても手先は非常にきよう。自分の趣味にあきたら僕の部屋にノックもせずにはいってきて
「コーヒー」の一言。この一言で大体2時間くらいは滞在するお客さん。もちろん一杯ではすまない。電気ポットがフル活動をするこになる。電気代が個人負担でなくてほんとによかったと。
藤本さんの部屋にはなぜか●●女子大学と縦書きに書かれた木製の看板が。正門に掲げられている銘板です。2Mくらいの看板。酔っ払って持って帰ったと聞いている。よく電車にもちこめたよね。それって窃盗じゃないの?
本人に聞くとさっぱり覚えていない。確かにアルコールを大量に吸収できる体質らしい。途中からかなり乱暴になるけど翌日はその記憶が吹っ飛んでいる。飲んでないときはほんとにいい人なのにね。この先輩が夜10時頃いつもと同じように
「コーヒー」と言った時にはすわっっている。
「斉藤 お前の部屋は殺風景だよね。この壁にポスターとか貼ろうとする気持ちはないの?」
「ポスター買うと高いでしょ。」
「そうか?じゃ調達してきてやるわ。その代わり持ってきたポスターに文句言うなよ」
「ちゃんとしたの持ってきてくだいさいよ」
そしてその日の夜中1時をちょっと過ぎたころ
「斉藤」と藤本さんが。さずがに夜中は鍵をかけているのでノックしてる。
「持ってきてやったぞポスター」藤本さんとけんちゃんこと前田さんが。
今で言うA0判を数倍大きくしたようなポスターを持っている。
「どうしたんですか?そんな大きなポスター」
「いいから そこの壁に貼っといて」
丸められたポスターを開いてみると真っ赤なポスターに白で文字が抜かれている。言われるまま壁に押しピンで張り付けると
「BIG BOX」の文字が
どこかで見たことがある。どこだっけ? どこだったかな? 今日も見たような・・・・・
そういえば恋ヶ窪の駅の壁に似たようなポスターが
翌日 駅の改札を抜けてホームにたつとそのポスターが貼られていた部分がむき出しの掲示板になっていました。それと柱毎に青い金属のプレートに白字で「こいがくぼ」とひらかなで書かれた駅名のプレートが見当たらない。
その夜 いつものように藤本さんとコーヒータイム 今朝の疑問点を口にだしました。
「藤本さん このポスターってもしかしたら駅に貼っていたやつ?」
「きにしない きにしない 期限が来たポスターは捨てられるだけだから」
「それって頼んだらくれるんですか」
「くれないよ」
「じゃ これは」
「だからきにしないで コーヒーお代わり」
話はそれっきり。駅名のプレートのことは怖くて聞けません。きっと誰かの部屋にあるに違いないから。 アルバイトへ